腎不全患者統計の完全解説 – 透析治療の現状と多発性のう胞腎患者データ






腎不全患者統計の完全解説 – 透析治療の現状と多発性のう胞腎患者データ



腎不全患者統計の完全解説

透析治療の現状と多発性のう胞腎患者データ【2023年最新版】

臨床工学技士・ADPKD患者による専門解説

はじめに

臨床工学技士として透析医療に携わり、同時にADPKD(多発性のう胞腎)患者としての立場から、
日本の腎不全患者統計について詳しく解説いたします。

2023年の日本透析医学会統計調査結果を基に、透析治療の現状、患者数の推移、
特にADPKD患者の詳細データについて、専門的な視点と患者目線の両方から分析します。
この統計データは、患者さんやご家族、医療従事者の皆様にとって重要な情報源となります。

1. 日本の透析患者総数と推移

2023年末透析患者総数

343,508人
前年比 3,966人減(1.2%減)

2022年から継続して減少傾向

有病率(人口100万人あたり)

2,762.4人
国民362人に1人が透析患者

前年比 18.6人減

患者数の推移(2019-2023年)

年度 患者数 前年比 傾向
2019年 344,640人 +4,884人
2020年 347,671人 +3,031人
2021年 347,671人 ±0人
2022年 347,474人 -197人
2023年 343,508人 -3,966人

専門家の視点

2021年をピークに患者数が減少に転じており、これは高齢化の進展による死亡患者数の増加と、
糖尿病性腎症の予防対策の効果が現れていると考えられます。
2012年の中井らの予測(2021年約34.9万人をピークに減少)と一致した推移を示しています。

2. 治療方法別患者数

治療方法別割合(2023年)

血液透析濾過(HDF)
59.1%

203,113人

血液透析(HD)
37.5%

128,774人

腹膜透析(PD)
3.1%

10,585人

在宅血液透析(HHD)
0.2%

799人

血液濾過(HF)
0.1%

237人

治療方法の詳細分析

血液透析濾過(HDF)

2012年診療報酬改定以降急増

• On-line HDF: 68.3%
• IHDF: 30.5%
• その他: 1.2%

腹膜透析(PD)

2017年から増加傾向

• 単独PD: 79.0%
• HD併用: 21.0%

在宅血液透析(HHD)

全体の0.2%と低い普及率

• 前年比28人減
• 先進国中最低水準

夜間透析の現状

29,944人
夜間透析患者数
前年比473人減

8.7%
全透析患者に占める割合

17:00以降
夜間透析の定義
または21:00以降終了

3. 原疾患別統計

2023年透析導入患者の原疾患(上位8位)

順位 原疾患 割合 傾向 視覚表示
1位 糖尿病性腎症 38.3%
2位 腎硬化症 19.3%
3位 慢性糸球体腎炎 13.6%
4位 多発性のう胞腎 2.5%
5位 急速進行性糸球体腎炎 1.5%
6位 慢性腎盂腎炎・間質性腎炎 0.6%
7位 自己免疫性疾患に伴う腎炎 0.5%
原疾患不明 14.5%

糖尿病性腎症の動向

2023年割合
38.3%
導入患者平均年齢
71.4歳
男女比
男性2.3:女性1

1998年から第1位を維持するも、近年は減少傾向

腎硬化症の動向

2023年割合
19.3%
導入患者平均年齢
76.8歳
男女比
男性1.5:女性1

2019年に慢性糸球体腎炎を抜いて第2位に上昇

原疾患の変化傾向

高齢化の進展に伴い、腎硬化症が着実に増加している一方、
糖尿病性腎症と慢性糸球体腎炎は減少傾向にあります。

原疾患不明の割合が14.5%と高いのは診断技術の向上と、
高齢者における複合的な病態が背景にあると考えられます。

4. ADPKD(多発性のう胞腎)患者特別統計

ADPKDの基本統計

2.5%
透析導入患者における割合

約8,500人
推定透析患者数

60.7歳
平均透析導入年齢

31,000人
国内推定総患者数

ADPKD vs 全体透析患者の比較

項目 ADPKD 全体平均
導入年齢 60.7歳 71.6歳 -10.9歳
男女比 1.1:1 2.3:1 男女差小
透析歴 長期 標準 良好
生命予後 良好 標準 +良

ADPKD患者の特徴

有利な点

  • • 若年での導入により適応能力が高い
  • • 遺伝性疾患のため家族のサポートが充実
  • • 他の原疾患より生命予後が良好
  • • 腎移植の適応になりやすい

注意点

  • • 巨大腎による腹部膨満感
  • • 肝のう胞の合併
  • • 脳動脈瘤のリスク(10-15%)
  • • 家族への遺伝の心配

ADPKD患者の透析療法選択

85%
血液透析・HDF
標準的な選択肢

12%
腹膜透析
巨大腎でも実施可能

3%
在宅血液透析
若年者に適応

臨床工学技士からの視点

ADPKD患者は透析導入時の年齢が若く、長期間の透析治療が予想されるため、
バスキュラーアクセスの管理や透析効率の最適化が特に重要です。

また、遺伝性疾患であることから、家族に対する遺伝カウンセリングや
早期スクリーニングの重要性を患者さんと共有することが大切です。

5. 在宅透析の現状

在宅透析患者数(2023年)

腹膜透析(PD)
10,585人
在宅血液透析(HHD)
799人
在宅透析合計
11,384人
全透析患者の3.3%

国際比較

日本
3.3%
アメリカ
12.5%
イギリス
18.2%
オーストラリア
25.8%

日本は先進国中最低水準

在宅血液透析(HHD)の詳細統計

項目 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
HHD患者数 786人 751人 748人 827人 799人
全透析患者に占める割合 0.23% 0.22% 0.22% 0.24% 0.23%
前年比 -35人 -3人 +79人 -28人

HHD普及の阻害要因

医療制度上の課題

診療報酬上の評価が低い

患者側の要因

技術習得への不安、家族負担

医療機関の課題

指導体制の不備、経済性

設備・環境

住宅事情、上下水道の制約

在宅透析のメリット

時間の自由度

患者の生活リズムに合わせた治療

QOLの向上

通院負担軽減、プライバシー確保

治療効果

頻回・長時間透析による除水効率向上

感染リスク

医療機関での感染リスク回避

今後の在宅透析推進に向けて

在宅透析の普及には、診療報酬制度の改善、患者・家族への教育支援体制の充実、
医療機器の技術革新が必要です。

特にHHDは、若年患者や社会復帰を目指す患者にとって有効な治療選択肢であり、
今後さらなる普及が期待されます。

6. 地域差分析

人口100万人あたり透析患者数 上位・下位10都道府県

上位10都道府県(多い順)

順位 都道府県 患者数/100万人
1位 徳島県 3,992.8
2位 高知県 3,779.3
3位 熊本県 3,778.2
4位 宮崎県 3,639.2
5位 大分県 3,562.0
6位 栃木県 3,560.9
7位 和歌山県 3,436.1
8位 鹿児島県 3,417.0
9位 佐賀県 3,298.1
10位 群馬県 3,258.7

下位10都道府県(少ない順)

順位 都道府県 患者数/100万人
1位 石川県 2,322.8
2位 東京都 2,327.7
3位 秋田県 2,365.4
4位 神奈川県 2,391.4
5位 滋賀県 2,408.0
6位 新潟県 2,413.5
7位 福井県 2,434.1
8位 富山県 2,488.6
9位 愛知県 2,554.9
10位 三重県 2,598.7

西南日本に多い傾向

九州・四国地方に透析患者が多く分布

  • • 生活習慣病の多さ
  • • 高齢化の進展
  • • 塩分摂取量の多さ

都市部で相対的に少ない

東京・神奈川・愛知などで低い有病率

  • • 予防医療の充実
  • • 若年人口の多さ
  • • 医療アクセスの良さ

最大格差

徳島県と石川県で1.7倍の差

  • • 地域医療格差
  • • 生活習慣の違い
  • • 社会環境要因

地域差の背景要因

透析患者数の地域差には、人口構成、生活習慣、医療体制、社会経済状況など
複数の要因が複雑に関与しています。

特に糖尿病有病率、高血圧治療率、健診受診率などの地域差が
透析患者数の分布に影響していると考えられます。

7. 将来予測と考察

患者数の将来予測

2026年予測
約33.5万人
減少傾向継続

2030年予測
約31.0万人
緩やかな減少

2035年予測
約28.5万人
顕著な減少

減少要因の分析

高齢透析患者の死亡数増加

糖尿病性腎症の予防対策効果

CKD(慢性腎臓病)進行抑制療法

腎移植医療の進歩

新薬(SGLT2阻害薬等)の普及

透析医療の技術的進歩

透析技術の向上

  • • On-line HDFの普及
  • • 高性能ダイアライザー
  • • 個別化透析処方
  • • AI活用の透析管理

在宅透析の発展

  • • HHD機器の小型化
  • • 遠隔モニタリング
  • • 簡便な操作性
  • • 安全性の向上

再生医療・移植医療

  • • 人工腎臓の開発
  • • 腎移植の拡大
  • • 異種移植研究
  • • 幹細胞治療

ADPKD患者への将来展望

治療の進歩


トルバプタン(サムスカ)の効果検証

新規治療薬の開発進展

遺伝子治療の研究

早期診断技術の向上

予防・管理の改善


高血圧管理の最適化

栄養指導の個別化

遺伝カウンセリング充実

デジタルヘルス活用

透析医療の未来像

今後10-20年間で透析医療は大きく変化すると予想されます。
患者数の減少傾向は続く一方で、高齢化や合併症の複雑化により、
より高度で個別化された治療が求められます。

ADPKD患者においては、新たな治療薬の登場と予防医学の進歩により、
透析導入の遅延や生活の質の向上が期待されています。

8. まとめ

重要なポイント

全体動向

  • • 透析患者数は2021年をピークに減少傾向
  • • HDF療法が59.1%と主流に
  • • 在宅透析の普及は依然として低水準
  • • 地域差が最大1.7倍存在

ADPKD特徴

  • • 透析導入患者の2.5%を占める
  • • 平均導入年齢60.7歳(全体より10.9歳若い)
  • • 生命予後は他疾患より良好
  • • 新薬による治療選択肢の拡大

343,508人
2023年透析患者総数
前年比1.2%減

約8,500人
ADPKD透析患者推定数
全体の2.5%

799人
在宅血液透析患者
全体の0.2%

臨床工学技士・ADPKD患者からのメッセージ

これらの統計データは単なる数字ではなく、一人ひとりの患者さんとそのご家族の
人生を表しています。ADPKD患者として、また透析医療に携わる臨床工学技士として、
この統計の背景にある様々な課題と希望を理解することが重要です。

透析患者数の減少は、予防医学の進歩と適切な治療介入の効果を示している一方で、
既存の患者さんにはより質の高い医療サービスの提供が求められています。

特にADPKD患者の皆様には、早期診断の重要性、新しい治療選択肢、
そして長期的な生活設計について、正確な情報を基に判断していただきたいと思います。
医療技術の進歩とともに、より良い未来が期待できる時代になっています。

データソース

• 日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在)」
• 日本腎臓学会「エビデンスに基づく多発性囊胞腎(PKD)診療ガイドライン2020」
• 各種医学論文および厚生労働省統計資料

最終更新: 2025年1月

作成者: 臨床工学技士・ADPKD患者


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